スウェーデン作家のセルマ・ラーゲルレーヴという女性作家をご存知でしょうか。
ノーベル文学賞作家であり、あの「ニルスの不思議な旅」の著者でもあります。
「ニルスの不思議な旅」が書かれた所以は、スウェーデンの学校で教材として使用するためでした。
「ニルスの不思議な旅」のあらすじは、無気力で怠惰、非情な、どうしようもないニルスという少年が、ある日小人にされてしまい、ガチョウやガンの群れと一緒にスウェーデン国内を巡るという内容。飛行旅行を通し、各地方の歴史、文化や自然などに触れ、ニルスは立派な少年へと成長します。
このお話が書かれたのは1900年代初頭。スウェーデンは資源も乏しく貧しい小国で、多くの若者が富や成功を求めてアメリカに移住している時代でした。そんな時代背景のもとに書かれたこのお話には、セルマがスウェーデンの未来を担う若者に、自国を理解し、愛してほしい、母国の未来に期待心を抱いて欲しいという願いもつまっていたそうです。そして、ニルスという人物を通して「立派なスウェーデン人」のイメージ普及にも影響したとか。
なんでニルスの話をしているかというと、かつてはスウェーデンの学校でも指定教科書(文学)、所謂学校教育内で読まなければいけない図書リストが存在していましたが、今ではそれら文学学習の義務化は撤廃されており、例えば生徒がアストリッドを読むか読まないかは先生次第だそうです。(私の学校の先生が言っていましたが、かつてはスウェーデン語科(日本で言う国語科目)の他に文学も一つの科目として時間割に組み込まれていたそうです)
2000年代に再びこの学校教育における必読文学リストを復活させようという動きがあったようですが、それが大きな論争を生みました。
反対派の主な意見は、スウェーデンの国民文学を学ぶ事を義務化することは、ナショナリズムを促進させる危険性もあり、今の多国籍国家であるスウェーデンにはふさわしくない。国民文学の基盤はそもそも「立派なスウェーデン人像」を育成することである(そうなの?!日本で学ぶ文学なんて「人間失格」とかだけど)から、「スウェーデン人像の固定観念」を全生徒に強要すべきではない、など。
先日ふとしたことでこのトピックについての記事を読んだ時に、ものすごいカルチャーショックを受けました。「一つの国、一つの言語、一つの文学」というのは過去の幻想で、ポリティカルコレクトネスを何よりも重視するスウェーデンは、すべてにおいて正しくあることが大事で、そのためには自国の文化も文学も軽視するのでしょうか。
と、これは行き過ぎた感想だけれど、文学が愛国心育成に影響するだなんて、まったく考えた事もなかったから、文学と国家の関わりについてスウェ語の授業で話し合ったのが面白かったのです。
なぜ文学を読むのかという問いには各々の理由が存在するけど、私の場合は漫画はよく読んでいたけれど、義務教育・高校時代に教科書以外の文学に触れた記憶は全くなかったので、今ものすごく後悔しています。今からでも読むことはいくらでもできるけど、多感な自己形成期の時に読むのと、今30歳前になって読むのとでは心に響くものは大きく異なってくると思うのです。
だからなにかと忙しい現代の子どもには、学校教育内でできるだけ様々な文学に触れさせてあげることが大事なんじゃないでしょうか。
最近知り合った友人の家が漫画喫茶だった。 |
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